『だから止められない、釣り師ヤマちゃん』を作者自身の朗読で聴く(1~7部、全5時間28分)

世の中には釣りキチと呼ばれたり、又、自らそう名乗る人間がたくさんいる。
その釣りキチでも「釣りキチ三平」は模範的釣りキチであろう。
その三平くらい腕が上がればと思う人 はここに登場するヤマちゃんも同様だ。
が、その反対の最たる者が「ハマちゃん」であろう。
その公私混同ぶりは半端ではなく、仮に実在の 人間ならとおの昔にリストラ、肩たたきをされているはずである。
映画だから受けるが、実在はありえないだろう。
しかし、ハマちゃんほどではなくとも釣りを愛している人はたくさんいる。

さて、「ヤマちゃん」こと山崎文彦もどちらかというと釣りキチの部類に入る人間である。
年はまさに中年の真っ只中の50歳になったばかりである。


ヤマちゃんの釣り歴はさほど長くはない。

子供の頃にも釣り(の真似事)をした経験はあるが、それはハヤやウグイを釣ったくらいで、その道具は と言えば、近くの山から竹を切って 来て枝を払って作った「竿」にテグス(今から40年ほど前は釣り糸はテグスと呼ばれていた)を付けて ハリは何でも曲がっていれば良く、餌はご飯粒かせいぜいおごってマルハのソーセージかチクワだった。 でも、ソーセージもチクワも餌にするよりも自分で食ってしまうことのほうが多かった。
それらの魚はたくさん釣れるが食うことはしなかった。
ハヤもウグイも骨っぽいので美味くない。
生まれ故郷の群馬県の田舎は埼玉県の秩父の山向こうの山が多いところだった。
清流が多いのでヤマメや岩魚が たくさんいた。
それらヤマメや岩魚は簡単には釣れなかった。
ましてや、10歳になるかどうかの少年にはとても釣れる 魚ではなかった。
そこで、簡単に釣れるハヤやウグイを釣って遊んでいた。
つまり、遊びで釣りをしていた。
小学から中学の初めまでの期間に釣りをした程度だった。

釣って食うことがそもそも目的ではなかった。
彼が少年の頃食った魚といえば1本10円のサンマがほとんどであった。
この魚はよく食った。(というより食わされた)
ヤマメや岩魚がおかずになることもなく、刺身などはお正月以外には食った覚えがない。
大人になってから気が付いたことだが、子供の頃刺身など食えなかったから「今は刺身が好きだ!」 という人間(復讐型人間)がいるかと思えば「食ってないから、今も食う気がしない」という人間(無関心 型人間)に分かれる。
ヤマちゃんは後者である。
彼はほとんど刺身に興味を示さない。
お付き合いですし屋に行くことが あってもイクラ、ウニ等は見向きもしない。
食うのはサバ、マグロの赤身、ハマチなどがほとんどだ!
安くできているし、それに量も余り食わない。寿司、サシミよりは芋の煮っ転がしのほうが好きだ。 その中に一切れの豚肉でも入っていれば文句は言わない。

そのようなヤマちゃんの釣りが本格的に始まったのは34歳の頃からだった。
場所はアメリカはニュージャージー州だった。
34歳でニュージャージーに転勤になったが、ニュージャージーの前はタイのバンコックに4年ほど 駐在していた。
南洋でも釣りのチャンスはあったが、「熱帯魚を釣っても面白くもおかしくもない!」というのが ヤマちゃんの口癖だった。
それに「食えない魚」又は「食わない魚」を釣るのは『無用の殺生』であって決して良いことではない と考えていた。(10歳の子供の自分にはそのような生類哀れみの感情はなかったが)
「熱帯魚は鑑賞魚」という考えもあった。
従ってタイ時代はもっぱらゴルフをしていた。
4年ほど ゴルフをしたが100を切るスコアを出した覚えは幾らもなかった。
ちょうどゴルフに限界を感じていた 頃にアメリカに転勤になったわけである。
それでも「ゴルフの本場」のアメリカに転勤になったので最初の1年ほどは毎週といってよいほど ゴルフをしていた。
元々大したスコアを出せる腕は持ち合わせていなかったのでカートで出来るゴルフは「楽しかった」。
ドライブの延長的気分でカートに乗っていた。
腕は全く上がらなかった。
ゴルフは相手がいないと出来ないスポーツである。
一人や二人で行って他の組と合流するのは全く気が進まなかった。多少気を使う必要もあったからだ。 100を切れない腕の場合は・・・。

仲間の都合が付かない時はどうしたか。
「釣りでもしてみるか?」と考えて釣具屋に行った。
釣具屋で色々と情報収集をしたり、釣りのレンタルビデオを借りたり、本を買ったりして情報収集 を始めた。
NJで釣りの出来る川はどことどこ、海では何が釣れるか、など等色々と研究した。
川の釣りは場所が近いし、手軽に出来るので時たま釣りに行くことになった。

ある年の秋口に本社の上司が出張でニュージャージーに来た。
その上司は無類の釣り好きで社内では 誰もが知る存在であった。 言わば社内の知名度では「ハマちゃん」に近い存在だった。
が、日曜釣り師の一線を越えることは なかった。
だから、リストラも肩たたきも無縁であった。
ガキの頃を思い出しながらその上司の釣り談義をホテルのロビー内の喫茶店で聞いていた。
「ニュージャージーでも釣りはできるのではないか?」と上司が聞いた。
「近くにトラウトが釣れる川はあります…」と答えた。
上司は余り興味はない様子であった。
彼の専門はハヤの「数釣り」であった。
もちろんヤマメも伊豆や丹沢の山へ行ってやっていた。

釣りにも色々と種類がある。
淡水魚で言えば、釣り味も、釣りの難易度も、食味も、見てくれもナンバーワンといわれるのは ヤマメや岩魚である。
次はアユであろう。
この三種類の魚をターゲットにする釣りをするにはとにかく金が要るのである。
ヤマメや岩魚は遠征費が馬鹿にならない。
近年は東京の近郊ではまず釣れない。
養殖ものもあるには あるが、それでも渓流美も考慮すると北関東、東北と遠征しなければならなくなる。
次はアユ。これは道具が馬鹿にならない。
1本10万円の竿など珍しくもない。
皆惜しげも無く金を使っている。金を使うことが釣果に比例するなら良いのだが…。
以上の釣りは伝統的な日本の釣り、つまり竿と糸の釣りである。
リールは使わない釣りだ。

近年、欧米風の釣りが流行っている。
リールを使う釣りだ。
その代表例はブラックバスの釣りになるだろう。
同格でフライフィッシングがある。
ブラックバスは東京の近郊で充分釣りが出来る。代表例は霞ヶ浦がある。近いのが便利。
箱根の 芦ノ湖も人気がある場所だ。
道具はリールと竿とルアー各種。
道具もさほど金が要らず、遠征も要らないのが特徴だ。
だから流行る。
が、この魚を食う人はまずいない。
ルアーで釣る楽しみとその獰猛な性格から来る アタリと引きが面白いのである。

このバス釣りが色々と問題を抱えている。
元々北アメリカ産の魚であったが食糧難の時代に輸入された、という説が一般的だ。
釣りの行為自体が問題ではないが、この魚をあちこちの川に放流する者がいたためだ。
「近くで釣りたい」という利己的考えからだと言われているがそれが現在では大問題となっている。
そのどう猛な性格と大食漢から在来の日本固有の魚をむさぼり食うためにかなりの被害が 出始めており、日本の河川の生態系を脅かしていると言われている。
あるときは釣り人と住民の間で争いも起こっている。
釣りをする人間の全部が問題ではないのは言うまでも無いことだが、その魚を自分の住居の近くの川に放す 不心得者がいたため問題になっているのだ。
海では磯釣りで多量のコマセを蒔くことから磯焼けという海洋汚染が問題視されている。
1回の釣行でオキアミを5kgも10kg海に撒く、当然大半は食い残されて磯や海底に沈殿する。それが 腐敗し微生物に分解されるのだが、それまでの間に磯では色々な影響がでてしまう。
 
次にフライフィッシングがあるが、これはファッション性がある。
釣る魚はヤマメや岩魚が第一 の目的だ。
マスもその代表的なターゲットとなる魚である。
ファッション性があって、釣る魚はヤマメや岩魚となれば文句のない釣りとなる。
それが人気の理由でもある。
特にルアーフィッシングもフライフィッシングも「餌」が要らない。
ミミズをつかめない女性でも釣りが楽しめるのが最大の利点である。
だから、益々人気が出る。

TWO
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