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… サーモンと共に生きる …

10月10日の早朝、山崎文彦はけたたましい目覚し時計の音で我に返った。
外を見る。窓の外はまだ真っ暗闇であった。
目覚し時計の針は5時半を示している。
「まだ、少し早いか!?あと少し寝かせてよ!」
うとうとしながら「さっきのサーモンは大きかったな!」と一人つぶやいた。
眠い目をこすりながら洗面所に立ったのは5時45分ころであった。
顔を洗い、歯を磨き終わるのに5分ほどかかった。

 
髭は剃らない。髭のさほど濃くない山崎は何時の頃から髭は前の晩の風呂の時に剃る 習慣にしていた。それで朝の時間が5分ほど節約できるためであった。

宵っ張りの朝寝坊タイプの山崎にとっては朝の5分は夜の30分にも相当すると考えている。
消防士が出動の時に急ぐと同じくらいに山崎の着替えも早い。
彼は平均的なサラリーマンである。
某社のニューヨーク駐在員として98年1月にそれまで駐在していたドイツから2度目のアメリカ 駐在に来ている。
趣味は釣りであった。ドイツ時代はがんじがらめの規制で釣りも思うように出来ず悶々の余暇を 過ごすことが多かったが、久々(5年ぶり)のニューヨーク駐在で文字通り水を得た魚である。

「ニューヨーク」と書いているが実際は隣りの州「ニュージャージー州バーゲン郡のとある町」に 住んでいる。いわゆるグレーター・ニューヨークとも言うべきである。
隣りの州ではあるが、ニューヨークのベッドタウンとして開けたニュージャージャーの一部はマンハッタン まで車で30分ほどの距離である。同じニューヨーク州内の住民でも一番遠いところに住んでいる人は マンハッタンから車で延々8時間も走らなければならない町もある。我々はたったの30分の距離に住んで いる。これが日本の常識では分からないだろう。
青森県の八戸も東京都の一部というようなものである。アメリカはとにかくデカイ!

普段の会社勤めの時はネクタイ一本分余計に時間がかかるがそれでも7分くらいで着替えを 終わるのが普通だった。今日はネクタイがない分2分早い5分で着替えが終わった。
つまり、起きてから10分で彼のいう「出動態勢」が整うことになる。
習慣で朝は飯も食わなければ、お茶やコーヒーを飲むこともなかった。
「体に良くない」と人から言われているが、この生活リズムは10年以上も続いており今更変更することも 簡単ではなかった。
ちょうどタバコ吸いや酒飲みがその習慣を簡単に変えられないのと似ている。

今日の出動先は家から480Km遠方、車で4時間の所である。
先週の週末もその前の週末も同じ事を繰り返していた。
ここ2週連続して480Km彼方に行っている。

身支度が終わったところで自分の部屋に行き昨晩用意して置いたリュックサックを肩に 掛け、野球帽をかぶり、2本の棒状の物を右手で握ったのが6時5分前であった。
リュックサックに入っているものはビデオカメラ、双眼鏡、ビニールのカッパ、ゴアテックス製の 雨具、厚手の毛糸の靴下、ルアーが2個、フライラインのドレッシング、たばこ2箱などである。
ガレージで四輪駆動車に乗り込んだのはその2分後である。
当たりを気にしながらイグニッション・キーを廻した。
家人、隣人に物音を聞かせないという配慮が彼の頭にはある。北国ニューヨークでは10月の朝6時はまだ 真っ暗闇の世界である。それに土日は誰でもゆっくり寝ていたいと思う。
「ブルンー」という音と同時にエンジンの規則正しい回転が始まった。

車の天井のちょうど頭の部分に気温インジケータが付いている。「51度(華氏)」を 差していた。いつものことだが「10月半ばとしては51度は寒い部類だな?」と思いながらも 摂氏に換算する暗算をするのが日課になっている。
「10.45度(摂氏)か!」と計算をしてから「この季節では平均だろうな」と思った。
通算でアメリカに住んで9年近くになるがいまだ気温は華氏から摂氏に計算し直して「実感」する 習慣が続いている。アメリカ・ナイズできていない証拠かも知れない。
とは言っても気温が85度とか90度という場合は単純にそれぞれ「暑い」、「クソ暑い」と いうくらいの感覚は当然身についている。
それでも一々「29.1度」、「31.9度」と計算をして「証拠固め」をして「暑い筈だよな!」 と実感し直すのである。手間の掛かることをしているものである。

温度計のすぐ傍にある3つのボタンの内の一番左の一つを押した。
ガレージのドアーが「ガラガラ、キー」と音を立てながら開きはじめた。
ギアをバックに入れてドアーの開ききるのを待ってバックを始める。
車がガレージを出きったところで同じボタンをもう一度押すとガレーのドアーは閉まり 始めた。
「アメ車も最近はいろいろと便利なツールが付いているな」と感心していた。
温度計の他に方位を示すデジタル方位計、満タンにガスを入れたら何キロ走行が可能か距離が表示 される、走っている間速度は一定でないので燃費も変わってくるがそれをコンピューターで管理して 残りの走行可能距離も表示される。勘で走ってガス欠することが無くなる。
更には購入以来1年半の間に消費したガスのトータル量が表示される。
付録で今までのガロン当たりの平均走行距離も知ることができる。
エアコンは昔の冷、中、暖の単純切り替え式から温度設定になっているので温度を決めておけば夏は自動で冷房に なり、冬は暖房になる。温度を一定に保つことが可能になっている。ちょっと前まではベンツの十八番と思って いたが今やアメ車の、それも普及品の車にも装備されるようになった。
後部席にも冷房、暖房の噴出し口があるので同乗者も快適なドライブが楽しめる。
シートは電動で前後、上下に動くのみならず、背中の腰の部分の背骨の形状に合わせて膨らませたり、 凹ませたり出来るようになっている。長時間ドライブの時の腰痛防止である。これは長距離の運転には 大変に有り難い装置である。
ヘッドランプも自動で点灯、消灯が出来る。ある一定の照度になるとセンサーが感知してスイッチを 入れたり切ったりするためである。
例えば昼でもトンネルに入るとヘッドランプが自動で点灯する。
出れば消灯するのは言うまでも無い。
従って車を購入して以来1年半が過ぎたが一度もヘッドランプのスイッチを触ったことが無い。
当然のことながらランプの消し忘れでバッテリー・アップすることも無い。
夜間はギアを入れてサイドブレーキを解除するとヘッドランプが点灯するようになっている。
読書灯も飛行機の座席の上に有るような仕掛けでそれぞれ必要とする人の部分だけを照らすようになって いるので他の人が迷惑をすることがない。
特に助手席の人がそれを使う場合は運転手には妨げにならず安全運転に専念できるのが有り難い。
最も驚いたのはオートクルーズである。
一昔前はオートクルーズで坂道を下るとどんどん惰性でスピードが増してしまったが、最近はエンジンブレーキ が効いて下り坂でもスピードが一定である。
CDプレーヤー、カセットステレオは当たり前であるが、パワーアウトレットがシガーライター以外に 2個付いて入るので携帯電話を常に充電しておけるし、他にも電気製品が車内で使用が可能になる。 例えばテレビを見るとか。
窓ガラスはスモーク仕様なので夏場でも直射日光が暑かった昔が懐かしいくらいである。

【2002年に同じ車種で車を新しく交換したが、その車にはOn-Starなる衛星を利用して各種サービス(道案内 、レストランガイド、その他の情報提供サービス等)を提供することも可能になった(有料だが・・・)。その 衛星を使用したサービスでは事故等で「エアバッグが作動した時」にその車の所在地を自動的に通報する ことも可能になっている。どこか人気のない田舎や山の中で事故があっても衛星経由でサービス会社に信号 が送られることになる(これは無料)。 更には車内にキーを忘れたままドアーをロックしてしまった場合 等衛星経由の信号でドアーがUnlockされることも可能になった。警察やLocksmithを呼ぶ必要もなくなった。
また、盗難防止のアラーム装置は一昔前は ホーンが鳴ったり、ライトが点滅したりしていたが、この手のアラームは誤作動が多く最近ではスーパーの 駐車場でアラームが鳴っている車が有っても「又、故障だな?」と、誰も気にしなくなっている。これでは アラームにならない。

ここで一息いれてサーモンアクションがどんなものか見てもらいましょう
ボリュームを半分以下に調整してください
 
最新型は音も鳴らなければ、ライトも点滅しない。盗難にあった場合はその車から 発生する電波を衛星経由で感知しGPSを使用してその車の所在地を突き止めることが可能になった。従来は 「持って行かれたらそれで終わり」でだったが今では持って行った場所を突き止めて現場を押さえることが 可能になった。】

外は依然真っ暗闇であるである。
「こんなに奇麗な星をみるのも久々だな」とふッと空を見上げた。
「さて、行くか!」決心をしたように呟いた。
頭の中には480Km彼方の現場の光景が浮かんでいる。
意外に途中の光景はほとんど記憶に無い。

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